変化を恐れず、
挑戦をやめない
Never afraid of changing,
keep challenging
城南村田はこれまでも、これからも、野心的な計画を胸に、いまを楽しみながら進み続ける会社です。ローテクなものづくりで世界を見据える私たちをごく簡単に紹介すると、2021年までは「プラスチックトレイの会社」でした。2022年からは、「ソフビ人形の会社」と呼ぶ人もあれば、「ホタテ漁の漁具のメンテ会社」と呼ぶ人もあるでしょう。
一般的な「社長のごあいさつ」よりも城南村田らしく我々についてお伝えしたく、インタビュースタイルを選びました。代表の青沼隆宏がざっくばらんに語ります。
● 聞き手・文:みつばち社 小林奈穂子
コミュニケーションデザインを専門とするふたりのユニット、みつばち社の1号。
Profile
株式会社城南村田ホールディングス
代表取締役社長 青沼 隆宏
コロナ禍、M&Aにより
三社をグループに
―ソフビ人形の場合、作り手は減少傾向でも需要は今後も見込めて、かつマーケットは世界、ということですね。
青沼:はい、より付加価値が高いので、可能性があると思います。金属加工のほうも、依然として求められているローテクなものづくりですね。
―金属加工については、一気に三社もM&Aされてますよね。
青沼:ちょっとずつ得意分野が違う三社だったものですから。経営者の方とお会いして、技術はもちろん、地域での事業のやり方ですとか、財務状況を確認させてもらうと、それぞれに誠実な仕事をしてきたいい会社でした。ご存知のようにいま、高い技術を持っていても、後継者不足などで廃業する中小企業がたくさんあります。他方、主力事業の転換を進めたい城南村田にとって、そうかといって設備から技術から、全部リセットした上であたらしい分野に乗り出すのはさすがに現実的でない。M&Aでは、設備も技術も、そして人も、元の会社ごと仲間になってもらえるので、ハードルの高さがまったく異なりますよね。双方にとって良い形を目指すことができます。
―なるほど。それにしても、埼玉に一社、北海道に二社とは思い切りましたね。
青沼:埼玉の有限会社大樹については、経営者志向を持っていたうちの社員に社長を任せました。これもやり方としていいと思ってるんですね。今後もグループ会社が軌道に乗ってきたら社員に任せたい。経営のイロハはなるだけ伝授するので、小さな会社の頭を張るという選択肢も持ってもらいたいんです。
―おもしろいですね。大企業だと社内ベンチャーなんかもありますが、それとも違って。
青沼:もちろん簡単ではないですよ。でも、やる気のある人なら挑戦する価値はあると思います。
―北海道の二社については。
青沼:札幌と、札幌近郊の石狩にある二社ですが、相乗効果が見込めたので2023年4月に合併して株式会社YMスチールスズキとし、新体制になりました。2022年の秋には、稚内にホタテ漁に使う八尺という漁具のための工場も新設したんですよ。
―札幌と稚内って、ずいぶん離れてますよね。
青沼:300キロ以上離れてますね。縁あってメンテナンスを手掛けることになった八尺というのは大型の金属の漁具でして、札幌まで運んでくるのもそれなりに大変でした。宗谷地方のホタテ漁の拠点近くにはメンテナンスを請け負えるところがなかったらしく、漁師さんたちもあると助かるという話を聞いて、思い切って投資しました。
―とにかく思い切りがいいですね。
青沼:漁業の世界、しかもホタテ漁に関わることができる好機でしたから。
―漁業の中で、ホタテは抜群に景気がいいのですよね。2022年の、農林水産品と食品の品目別輸出額では、ホタテ貝がトップというニュースを見てびっくりしました。地元ではホタテ御殿が建っているとか。
青沼:そうなんですよ。日本が世界に勝てる分野という話の、食材の輸出につながりますでしょう。
―ほんとだ!
YMスチールスズキでは、防雪柵を含め大型の
製作物も手掛けている。
グループ会社である大樹の浅井利晃社長と。
城南村田の社員から社長になった第一号。
日本の北端、稚内でチャレンジ!
青沼:ホタテ関連の輸出には、どこもいま参入したいはずです。ビジネス上、そこは当然重要です。ただ、僕の場合はとにかく釣りが大好きな、釣りキチなもので、なんでもいいから漁師さんにお近づきになりたい、お役に立ちたい、という気持ちも手伝って…というのが偽らざるところですね。
―三平でしたか。それは良い巡り合わせでした。
青沼:お話をもらったときからワクワクして、正直前のめりでしたね(笑)。でも、勉強して知るほどに、好機であると確信が持てたので決めました。八尺のメンテナンスをする事業者がお膝元になかったと言いましたが、大型の漁具の受け入れができる事業者や、扱える職人がそもそも減っていて、全体で見ても貴重なんです。うちも、稚内に設備を揃えたまではよかったのですが、職人さんはもっと増やしたい。住居も用意しますから、稚内にロマンを感じる方は是非仲間になってもらいたいです。
―仕事も住むところも用意するから身一つで来てください、ですか。
青沼:そうそう。「東京は家賃が高すぎるし人も多すぎる」と見切りをつけたい人、あと、僕みたく釣りキチだか釣りバカで、もっと趣味を楽しむために別天地に移りたいという人。いきなり稚内は…というなら札幌ベースで、一年の3分の1とか4分の1稚内に行く、というのも悪くないかなと思っています。
―それは良さそう。
青沼:とにかくなんでも、従来のやり方にとらわれずチャレンジしてみたらいいと思うんですよね。会社としてはそう考えているので、働く人も。仕事のしかたにしても、住む場所を含めたライフスタイルも、柔軟に、自由度を上げて捉え直してみるとおもしろいんじゃないかと。
―青沼さんご自身が、おもしろいのがいい、楽しむのがいいと考えるほうなんですよね。
青沼:完全にそうですね。やってみないとわからないことも、おもしろそう、楽しそう、と期待して始めます。社長がこうなので社員は大変でしょうが、そろそろ耐性がついてきました(笑)。変化に強くなるのは、個人としてもいいことですよね。だって、おもしろいほうが良くないですか?
―あ、はい、そうですね(笑)。
小石でも、一石投じたい
青沼:先の見えない時代に、変化を恐れるより、いまの、この時代を楽しむのがいいと思うんです。以前はできなかったことができるようになる変化も多いです。
―テクノロジーが進化して浸透するスピードは加速してますからね。一方で、ローテクのものづくりの中には、逆に価値が高まるものも少なくないでしょうね。
青沼:そう思っていますし、働く側も、ものづくりが好きであれば、全部機械やコンピューター任せより、やりがいがありますよね。うちの社員もそう感じているようです。だからこそ、スピードやコストだけにしのぎを削る土俵には立ちたくありません。
―そうですよね。
青沼:ソフビ人形のほうは、子会社として、GUTSY
TOYという社名の企画会社もつくったんです。“GUTSY”は、日本語で、ガッツがあるという表現に使われる単語です。ヒラリー・クリントンさんと娘さんによる、Gutsy
Womenの本というのがありまして、勇気とレジリエンスがテーマなのですが、ヒラリーさんといえば、大統領選に敗北したときの演説で「ガラスの天井」に言及しましたよね。
―はい、女性を阻む、見えないけれど確かに存在する障壁への比喩で、その最も高いものを彼女は破れなかったが、いつか誰かが破るだろうと。
青沼:そうです。GUTSY
TOYの社長はうちの妻。僕と同じく、おもしろそうなことに着眼する人ですが、僕より感性や発想が豊かといいますか、いつもアイデアをくれるので適任だと思いました。この会社には今後、女性に限らず、マイノリティと呼ばれる人たちを含む、多様なバックグラウンドを持った多様な人に働いてもらいたいと思っています。そしてソフビ人形でも、いつか世界を狙いたいです。
―挑戦は続行中、ますますおもしろくなりそうですね。
青沼:明るい面ばかりを見ているのではなく、むしろ、「日本、大丈夫か?」という危機感が膨らむばかりなんですよ。ひしひしと閉塞感を感じています。でもだから、小石でも一石投じたいじゃないですか。自分に社会をどうにかする力があるとは思ってないですよ。思ってはいませんが、ただあきらめるより、せめて子どもに、「変えられなかったけど、変えようと、やるだけやった」と言いたいですよね。
―小石を手に。
青沼:小石を手に、城南村田は楽しみながら挑戦を続けます。
GUTSY TOY 青沼純子 ごあいさつ
大樹 浅井利晃 ごあいさつ
城南村田は、合体や変身が得意
ソフビ人形製作の工程には細かい手作業も含まれ、それゆえの微妙な個体差が生じる場合がある。その点がまた愛好家に歓迎されることも多い。